かっこいい電車
えっと,その,つくばエクスプレスとかいう乗り物えもすぎる,九〇年代からゼロ年代にかけてのSFアニメ的な良さが詰まってると思います
まず行先が筑波というのがいいですよね,研究学園都市ですよ,それだけでもう科学少年少女はイチコロだと思うんですよ,しかも筑波大学って多分下宿が多いですから,若者たちが未来都市で科学研究に励みながら共同生活を送ってると思うとわくわくしますね,しかも他にあんまり産業がなくて周りが農業地帯だったり自然がいっぱいあったりそれを愛でている人たちがいたりするところも大量消費の工業社会から脱皮した人類社会って感じがしてとっても良さがあります
そして起点が秋葉原ってのがまたすごいですよね,秋葉原ってもともと火除け地で,発展の仕方を見ると理路整然っていうよりもアジア的なカオスさがあるじゃないですか,人間の営為の泥臭さって感じがします,でもそれでいて電気街なんですよね,飲み屋とかではなくて それが科学都市筑波に通底するテーマとなりながら,鮮烈な対比を為していてもうすごすぎます,整備計画を決定したひとは漢詩のプロなんだと思います,対聯とか飾りたいレベル
それからですね,筑波といえば筑波山,倭健命が訪れた地,平安朝の歌枕 まほろぼの世から都人が思いを馳せる地であります ですから東京なんかよりよっぽど歴史があるんですよね 時代感が行ったり来たりで目がまわりそうですけど,ともかく律令制の時代から中央にその名を轟かせていたのがこの筑波の地なわけで,そこには失われた古代の官僚制に対する憧憬が息づいています 各地に権力が乱立した中世でさえも,菟玖波集なんていう連歌集がありますよね(由来がここなのかはよく知りません),ナショナリズム的で恐縮ですけど,日本政府が列島の中から一箇所を選んで研究学園都市をつくるのには最適だと思います,近畿の時代であるところの古代中世からの東国,それが筑波なわけですから 閣議決定したひとたち最高すぎる
あと「つ」がつくのもいいですよね,まあ世界的に見て珍しい音素ではないですけど,現代のリングアフランカであるところの英語では語頭には立たない音節なわけじゃないですか,筑波は英語で言ってもTsukubaなわけですけど,そんなグローバル化を経ても解消できないvernacularさっていう対立構図が現れ出ています
そして何を隠そう電車がまあもう一等恰好いいわけです,シルバーを基調として紺と赤をあしらった配色,もう強すぎます シルバーといえば金属ですから科学文明の象徴,そして紺は深夜の空の色ですよね,その時間帯に人類が活動しているのは電気文明の所産であって,それでいて周囲を完全に明るくはできないところに一人の人間という存在の矮小さが暗示されていて,でも深夜というのは極めると早晨を見るんですよ そして赤といえば鮮烈な血液の色,機械に囲まれて輝きを放つ生命の証,そして情熱の色です 駅の案内板とかも全部この色になっていてもう本当にニクいです
電車が六両編成というのもとても至高です,やっぱり未来のイメージって人で溢れてはいないんですよね,都市へのシノイキスモスを果たしながら,高度成長期的な人口爆発の猥雑さはない,それを象徴するのが六両という数字です,十五両ではだめなんです しかも六! 十や十五といった人間の指の本数ベースの数ではなく! 偶然を凌駕する完全数の美しさ 優勝ですもうこれ
更にですよ,なんとこれつくば行きの電車は交直両用なんですよ 両方に対応するなんてね,当然高いわけですけど,観測所のデータのために敢えてこれをするっていうね,俗世離れした支出! 最高です なんで全線交流にしなかったんだろ,まあいいや
そしてですね,つくばエクスプレスの自己完結感もとても推せます 他の路線とぜんぜん直通とかしてないわけですね 行き先もユニークですし これがまたつくばエクスプレスの浮世離れした清潔感を演出しています 駅ナンバリングとかもですね,今でこそいろんな路線でやってますけど,つくばエクスプレスが出来た2005年にはまだ稀だったんですよ,この駅への付番というデジタル化,とてもよきです 他路線と違って,つくばエクスプレスって駅ナンバリングにアルファベットの路線記号がついてないんですよね,単なる二桁の数字で そこにもその先進性がいまに息づいていると思いますし,他路線から離れた唯一無二さが出ていると思います
所要時間が四十五分っていうのもいい数です,リニアが東京と名古屋を六十七分で結ぶことを踏まえても,この一時間前後っていうのが,遠い距離を技術で速く結んでいる感のあるちょうどいい数字なんです,首都からそれくらいっていうと世宗市や新北市のことが想起されます 一日の2⁵分の1なのもきりが良くていいですね
というわけで,切符を買って乗りました,このアトラクションが見せてくれるのはゼロ年代の夢であって実在する未来ではないので,あの時代の日常とリンクさせながら乗りたくて えー,めちゃくちゃ良かったです,今度はちゃんとつくばまで乗りたいですね 或いは乗らないほうがいいかもしれません,なにしろこの記事に書いた筑波はすべてイメージの中の存在ですから,実在する筑波がこの通りとは限りませんし,なんせ最後に行ったのがもう十年も前ですから大分美化されているはずです さて南千住に着きました,現実にかえって,在来線で引き返そうと思います 乱文失礼しました おわり