今様の歌を誉む
une admiration pour les tanka modernes
originel, 08 juin 2022
歌といふはまことに妙なるわざなりけり。心かなはぬときに、かひなく長き恨み言せば、言霊の住みわたらむけにや、もと人をうらむべきに、やうやく刃はわれに向きて、身を蝕むべし。さるを、短き歌にあらはせば、さうなき心、露のやうにちひさく結びて、朝日にかがやうべし。
近ごろの歌は、われを書き作るにのみ励みてあながちなりと誹る者もあれど、古の歌の優なるはいふもさらなるを、こもまた、たふとぶべき今様の心ならずや。世の中はみなかひなくて、つひには我身ひとつのみぞ残るべきは理りなれば、さる侘びしさをいとひて、朧月のやうに、白絹して影を覆ひ、やさしき灯りの中にかたらひすさぶもまたあはれにあべけれど、かたみに影をほそくこらせて、まじはる一点を見出せば、かがやきは限りなく凝り集まりて、よろづのことにもかへがたき宝となるべし。
世変はりては人の心もありつるやうにはあらぬを、いづれの心もへだてなく言ひあらはす歌こそ、世につたふべき宝なれ。