les impressions et les expressions

五駅直結 地下通路踏破記

la Cnossophilie
originel, 31 décembre 2023

プロローグ

首都東京には13路線の地下鉄がひしめき合っており、ほかにもJRや私鉄の地下駅、ビルの地下街と、地上のみならず、地下にも一大都市が築かれている。地下街には飲食店や床屋、雑貨屋などがあり、また地下鉄直結のビルも多く、梅雨の月でも傘を持たずに移動することも不可能ではない。一方で、景色の見えない地下は多くの人にとって道に迷うきっかけにもなっており、怪異を発見しつつ地下鉄の駅から脱出するゲームが人気を博しているほどだ。そんな東京のラビリンスを揶揄して、駅同士がつながっているとの表現がある。しかし、実際に見ると、地下鉄の駅同士はかなり至近距離にあるものの、つながっているところは多くない。

そんな「連結駅」の中でも異様な規模を誇るのが、東銀座~銀座~日比谷・有楽町~二重橋前~大手町、大手町~東京の六駅連結だ。これらの駅を通る路線は銀座線、丸ノ内線、日比谷線、東西線、千代田線、有楽町線、半蔵門線、都営浅草線、都営新宿線の9路線とJRの山手線、京浜東北線、中央線快速、横須賀線・総武線快速、京葉線、東海道線・上野東京ライン、東海道新幹線、東北・上越・北陸新幹線の9路線で、(東京駅が入っている分JRに関しては少々ずるいような気がするものの)東京の主要路線をほとんどカバーする大規模な直結である。

路線図(東京メトロ公式サイトより)

ちなみに乗換扱いになっている有楽町線銀座一丁目と銀座線・丸ノ内線・日比谷線の銀座駅はつながっておらず、乗換扱いにならない有楽町線有楽町駅と銀座駅がつながっているのは面白い。もっとも、銀座駅から有楽町線に乗り換えたい場合は、きちんと地上に出て正規の銀座一丁目を使わないと、運賃計算が打ち切られて再度初乗り運賃を支払う羽目になるため割高だ。

なにはともあれ地図を見てほしい。スクリーンショットを張り付けたかったところだが、駅構内を示す赤い印はある程度縮尺を拡大しないと表示されないため、困難だった。代わりに埋め込みをしたので、各自で適宜、東銀座駅から地図を動かして辿って行っていただきたい。ちなみに都営三田線大手町駅のD1出口はJRの東京駅とくっついて見えるが、ここはつながっていないため、都営三田線から東京駅のほうに回るには東西線のほうから回っていかなければならない(もちろん地上に出ればわざわざ迂回しなくとも一瞬で到達できる。)

というわけで、今回はこの大連結駅のうち、不自然な回り込みをしなくても歩いて行ける日比谷線東銀座駅~千代田線大手町までを歩いてみた様子をレポートする。決行日は令和5年12月30日。ルートは、東銀座が正直わざわざ行かない限り用がない場所なことを考慮しつつ、冬に外を歩くなら明るいうちのほうがいいことから、帰りを地下探索に充てたいと考えたため、東銀座→大手町の方向で行うこととした。

今回のコース(地理院地図より)

東銀座駅

スタート地点は東銀座。都営浅草線と日比谷線が乗り入れる駅であり、歌舞伎座の位置する町として知られる。日比谷線の上を走る晴海通りと浅草線の上を走る昭和通りが交差する三原橋交差点は,北緯35度40分、東経139度46分。ここから北西の方角に地下街が展開されていく。

東銀座駅浅草線改札

本来であれば、東銀座駅で最も南東に位置する6番出口から入りたいところだが、銀座方面に行くにはあいにくここからだと行くことができない。

東銀座駅構内図(都交通局ウェブサイトより引用)

このように、東銀座駅の構内は地下一階を走る浅草線の線路によって分断されており、南東側の出口群と北西側の出口群の間を相互に通り抜けるには、浅草線の改札に一旦入場しなければならないためだ。そこで今回は、銀座側に続く唯一の出口であるA2から入場した。(先のほどの写真は改札を撮るために一度戻ってきた恰好だ。)

改札を出てすぐの案内板

案内板を見上げると、どうやら東銀座・銀座間の地下通路は銀座地下歩道と呼ばれているらしい。案内板にある目的地のうち、銀座4交差点などはこの歩道の先のことを指しているに違いなく、東銀座駅から銀座四丁目方向に行くことが正式に案内されていることになる。

出口案内

銀座地下歩道の入口に近い出口案内を見ると、さらに大胆に銀座駅・有楽町・日比谷方面と記されている。どうやらこの三駅間の通路は、乗換扱いこそないものの、駅同士を結ぶ通路として意図的にできあがっているもののようである。

東銀座駅~銀座駅(銀座地下歩道)

銀座地下歩道の様子は下写真の通り。中央通りより東は小規模な店舗が多く、あまり駅直結を期待されていないのか、人通りは少ない。地下歩道は綺麗に整備された未来的な雰囲気で、シルバーがかった白を基調としてすっきりとまとめられている。一方の中央には煉瓦があしらわれており、クラシックな雰囲気を残して見事な調和が図られている。この煉瓦は近づいてみるとがたがたしていて少し古めいている。初めは銀座線のことが思い浮かんだが、そこまでの古さはなかったし、整備された時期のことを考えても、あらかた建設時に出土した銀座の煉瓦街の名残をデザインに活かした、というところだろう。

銀座地下歩道

調べてみると、設計事務所による紹介サイトが見つかった。竣工年は2020年とかなり新しく、この小綺麗さも納得だ。もっとも「銀座地下歩道リニューアル」とあるように、この歩道はもっと昔からあるようである。実際東銀座の駅にあった出口案内板はそれなりに年季がかっており、3年前に設置されたばかりのようには思われなかった。コンセプトは“「ひと」と「まち」と「記憶」をつなぐ地下通(ちかみち) ~新たにつながる時間軸~”らしく、先に述べた煉瓦街のことも、建設時に出土~の部分はともかくとしてあながち間違っていなかったということだろう。

銀座地下歩道内の出口案内

出口案内も、地下鉄のものを基調としつつ、白をベースにまとめた歩道の内装に合うすっきりとしたデザインになっている。地下鉄の出口案内とは異なるデザインとなっているということは、この歩道が東京メトロや都交通局以外によって管理されていることを示唆する。先ほどの設計事務所のサイトによると、施工業者は東京都建設局であったとのことであるし、この地下道の上を走る晴海通りは都道304号を構成することから、都道の歩道として管理されているのかもしれない。

それにしてもこの歩道はかなりおしゃれだ。早速テンションが上がる。

銀座駅

銀座地下歩道は和光の時計が有名な銀座四丁目交差点のところでちょうど終わる。出口はいきなり人通りの激しい銀座線改札口に通じていた。銀座駅は有名なのと、実のところこのあたりで道に迷っており、かつ人も多く、写真を撮り忘れてしまったので、記述はこれだけに留める。

銀座駅~日比谷・有楽町駅

銀座駅の改札口附近は近年の改装でかなり綺麗になっているが、地下鉄のターミナル駅の中でも屈指の歴史をもつ駅なだけあって、少し離れると年季のこもった雰囲気が漂う。そんな構内を通り抜けると銀座駅から日比谷駅への通路に達する。丸ノ内線の駅は、日比谷線の開業まで西銀座駅と称しており、銀座線の銀座駅とは別個の駅だった。現在でもかなり西まで位置しており、銀座駅から日比谷駅までの通路は、この丸ノ内線へと乗り換える通路が半分近くを占めており、駅間通路へはかなりぬるっと入ってしまった印象だ。

銀座駅~日比谷駅の通路

駅間通路はおおむね駅構内のタイル張りの印象であるが、床面には一部意匠があしらわれており、単なる駅構内とは少し異なる面持ちを見せている。出口案内は東京メトロのものと同一であり、管理者がメトロなのかどうかはよくわからない。壁には中央区民の人の絵が飾られていたが、さすがに区道ではないと思うし、範囲が都民でないところも妙なので、おそらく民間のメトロが地元の人向けのスペースとして貸し出しているというところなのではないか。

丸ノ内線の走る外堀通りを過ぎるとすぐにJRの高架橋が見えてくる通り、西銀座と有楽町は非常に近く、JR有楽町駅の近くになると東急プラザ銀座のような駅直結の新しい施設が増えてきて、駅間通路というよりは出口へと続く駅の一部といった様を呈してくるので、ここの駅間通路は非常に短い。ちなみに有楽町線はこの晴海通りより北の名前のよくわからない細い通り(openstreetmapには「丸の内5th」とある)の下を通っているため、日比谷線の銀座駅の場合と異なり、ここでは有楽町線のコンコースが駅間通路を担っている訳ではない。

日比谷駅・有楽町駅

ここ日比谷駅からはかくっと折れて北上する。ここからは日比谷通りの下を歩くことになるが、この通りは皇居のお濠に面しており、この先までまっすぐ進むことはできないどん詰まりの位置にある。

都営三田線改札

なお、駅間通路とは関係ないのだが、実はここで間違って南下してしまい、その際にいかにも地下駅の終端というような光景が見られて非常に良かったので、日比谷駅の項で簡単に紹介させてもらう。

過ちの始まり

ここが過ちへの始まりだ。千代田線のホームに続いていることがわかる。

ミッドタウン日比谷への直結口

ミッドタウン日比谷への直結口。ちなみにこれをミッドタウン八重洲と誤認したのが道の間違いに気づけなかった原因の一つである。天井が優美なデザインとなっていて、モスクワの地下鉄駅を思わせる。

正しい道

これが正しい道だ。どっちも上り階段で見通しが悪いのでわからなくなってしまった。それから先に述べた、有楽町線は少し北を走っているということに気づいていなかったため、有楽町線方面と書いてあったのに疑問を抱いたのも失敗原因の一つである。

有楽町線入口

運命の分かれ道から正しい道を進んで少し北へ行くと有楽町線の入口がある。JR有楽町駅と書いてあるが、駅間通路特集にちなんで話すと、ここ有楽町線の地上出口や丸ノ内線銀座駅の地上出口とJRの駅の入口の間には5mほど屋根がないただの歩道があり、雨が降っているときは微妙にうざい。また、JRの有楽町駅を中央口から出ると目の前に口を開けている巨大な駅の入口は丸ノ内線銀座駅のものであり、同駅名の有楽町線有楽町駅に入るためには北口の小さなところから入らなければならない(中ではつながっていない)のも一大トラップである。

日比谷駅の北端

有楽町線の入口を過ぎてももうしばらく日比谷駅が続くが、このあたりまで来るともうほとんど人はいない。

新年らしい張り紙があった
京葉線方面出口

更に北まで歩くと、JR京葉線東京駅方面を称する出口があった。ただし、この出口は地上へと出てしまうだけであり、京葉線まで直結しているわけではない。ちなみにもっと北の大手町のほうから回って行けば駅構内だけで京葉線まで行けないわけではない。京葉線東京駅と山手線有楽町駅の間では、南のほうから来て有楽町で降り、京葉線の乗り換える場合に限って改札を出ない乗換として認められる特例があるが(有人改札で駅員の人から証明書をもらうらしい)、もしここと上述の有楽町駅前がともに地下で繋がっていたらこの乗換もそれなりにわかりやすくなることだろう(ただし若干西に迂回することにはなる)。

なお、このあたりは皇居外苑の中まで通じる鍛冶橋通りの地下であり、京葉線はその下を掘られている。新宿方面への延伸を意図して敢えて南にずれた位置に駅を設けたとされているが、京葉線の東京駅が成田新幹線予定地の流用であることは有名なので、建設費削減策を押し切るための方便かもしれない。そんな梶橋通りは、交差点を挟んで南の出口が日比谷駅、北の出口が二重橋前駅を称する妙な通りである。もちろん中ではつながっているので、間違えて入ってしまったとしても問題はない。

駅境界の目前

日比谷駅の北部は三田線の駅の一部であるから都交通局が管理しており、千代田線の二重橋前駅は当然メトロの駅であるから、管理者が異なる。そのことを示すように床の色が若干違う。ところで東銀座駅でもそうであったが、東京メトロは近年駅のリニューアルを次々と進めており、ここでもその分都営の駅がやや古ぼけて見えてしまう。

二重橋前駅

なお、日比谷駅から先はすべて駅の一部であって、駅間は存在しない。というのも、高度経済成長期には都心部のあらゆる地点で地下鉄の出口までの距離が300m未満になることが目指されており、これを実現するため、同じ通りの下を走り、同時に建設された千代田線と三田線は意図的に駅の位置をずらして作られているのだ。南から順に、千代田線日比谷駅→三田線日比谷駅→千代田線二重橋前駅→三田線大手町駅→千代田線大手町駅の順に駅がある。千代田線はそのせいでどうにも場所が偏ってしまって不便だ。東銀座~銀座がかなり意図的にくっつけられた駅間であったのに対し、このあたりは図らずしてくっついてしまっている部分と言えるだろう。

少し戻って日比谷駅鍛冶橋通りの手前
少し進んで二重橋前駅

なお、駅境界にはまったくけじめがないわけではなく、上述のように管理者によって壁面デザインが異なることに加え、このように境界前後に段差が設けられている。千代田線と三田線が同時に建設されたことを踏まえれば、この段差はわざわざ作られたものだと考えられる。浸水対策の一種なのかもしれない。

二重橋前駅の終端部

更に歩くと二重橋前駅と大手町駅の境界部分が現れる。こちらも、配色の差とはいえ、都営側の大手町駅がやや古めかしく見えてしまう。

大手町駅

三田線大手町駅を抜けたところ

上写真は、都営の運賃表が写っていることから、三田線改札口附近で撮ったものだろう。

大手町駅(東西線附近)

こちらは、管理が再度メトロに移った東西線附近。モダンな印象を与える。丸ノ内線と半蔵門線はこの通路より少し東にあるため、東西線を抜けると最後には千代田線しか残っていない。人通りもまた少なくなってくる。

大手町駅北端へ
大手町駅最北の神田橋改札

大手町駅の最北端は神田橋。竹橋駅にもほど近く、首都高の出入り口があるあたりだ。次の新御茶ノ水駅や神保町駅との間には少し距離があり、繋がっていない。

大手町駅最北のC2b出口

大手町駅最北のC2b出口。そのまま地上に出ることもできるし、まっすぐ行けば経団連や三井物産のビルに直結している。長い地下通路歩きもこれにて終了となる。(こんなところで出てもしかたがないので結局このあと少し引き返すことになる。)

ここまでさんざん壮大であったが、実のところ2.5kmしかない。地下というのは広いような狭いような不思議な空間である。

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